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吃貨美味探訪記 No.134(大馬編その3)「日本の焼き鳥よりも甘いけど、慣れると美味い──サテー」

 さて、今回ご紹介するマレーシア料理はサテーである。言うなれば東南アジア版の焼き鳥なのだが(とはいっても材料は鶏肉だけではない)、味付けがかなり甘い。日本の焼き鳥をイメージしていると、かなり期待を裏切られることになる。

サテーはマレー系の屋台が一番美味い

 サテーの発祥はインドネシアのジャワ島とされている。18世紀ごろにインドのシシケバブを真似て屋台で作られるようになったのが始まりと言われており、それが広く東南アジアに伝わり、シンガポールやマレーシア、タイなどでもよく食べられるようになったようだ。

 筆者が初めてサテーを食べたのは、今からもう25年以上も前のシンガポール。海辺の屋台で食べたのだが、恐らく日本の焼き鳥をイメージしすぎていたのだろう、予想していたよりも甘く、思わず「醤油をくれー」と言いたくなったほど。正直、あまり好みではなかったのを覚えている。

夜市でよく見かけるサテーの屋台。というか、サテーといえば屋台である

 その後、マレーシアに行くようになってからも、特にサテーを避けていたわけではなかったのだが、なぜか食べる機会がなかった。

 それから20年ほどがたったある年、クアラルンプールに住む現地の友人(華人)の家に泊まると、夜食でサテーの屋台に連れていかれた。20年ぶりに食べるサテーは、シンガポールで食べたのとはやや異なり、生のキュウリやタマネギのスライスもたくさん添えられていて、カレーのようなソースをつけて食べるようになっていた。

クアラルンプールで食べたサテー。屋台なので、食べるのも当然外である

日本の焼き鳥よりもやや小さめ ソースをつけずに食べると、たしかにやや甘い。ソースそのものも甘めなのだが、スパイスがよく効いていて、サテーにそれをつけて食べると、甘さをそれほど感じなくなり、これがビールによく合った。

 意外だったのが、単なる生のキュウリやタマネギが、このソースをつけるとやけに美味く感じたこと。サテーそのものよりもずっと好みだった。

 その数年後、知り合いの一族の一人が結婚することになり、その結婚式にも呼ばれて参加した。その前夜祭として開かれた屋外での宴会で、サテーの屋台が呼ばれて、大量のサテーが焼かれた。こちらはソースなしタイプ。最初は甘く感じたが、食べているうちに味に慣れてきたのか、食べる手が止まらなくなってきた。

 現地の知り合いの話によると、サテーはマレー系の人たちが作ったもののほうが美味しいのだという。宴会に呼んだのも、マレー系の人の屋台だったそうだ。

 話は変わるが、サテーを中国語で書くと、沙嗲(シャー ディエ)または沙茶(シャー チャー)となる。これはサテーの読みに漢字を当てたものだが、沙茶のほうは音があまり似ていない。こちらは福建省での書き方で、現地の方言(閩南語)で茶の漢字は「テー」と読み、沙茶は「サー テー」となるのである。

 前々回、大馬編の第1回で取り上げた「肉骨茶」の読み方を覚えているだろうか。こちらも閩南語で「バー クー テー」と読み、茶の漢字は「テー」と読んでいる。そして、福建省は中国有数のお茶の産地であり、お茶を海外へ輸出する際の出港地でもある。

 英語やドイツ、フランスなど西欧の国々では、紅茶などのお茶のことを「ティー」または「テー」と呼ぶ。これはその昔、お茶を中国の福建省から輸入していたことから、このようになったとされている。

 一方、ロシアやインド、トルコ、ベトナムなど(そして日本や韓国も)では、「チャー」または「チャイ」のような呼び方をされる。こちらは、中国のもう一つの貿易港である広州からお茶が輸入されたから、そのようになったと言われている。広州の言葉である広東語では、茶の字は「(ツァに近い)チャ」と読むのだ。

 ただし日本の場合は、漢字の字音はいつの時代にその漢字が日本に入ってきたかで決まっていることが多いので(いわゆる呉音、漢音、唐音というやつ)、広州からお茶が入ってきたから茶を「チャ」と呼ぶようになったというわけではないだろう。

 ちなみにマレー語ではお茶は「teh(テー)」となる。マレーシア華人は広東系が多いが、福建系もけっこう多いのである。

 本題のサテーからかなりズレてお茶の話に飛んでしまったが、いずれにしても、食べ物と言葉というのはけっこう密接に絡んでいるのである。
おまけカット1。クアラルンプール市内を走る高架鉄道

おまけカット2。クアラルンプールの中央駅であるKLセントラル駅

なんちゃってマレー語講座2。「amaran(アマラン)」は「警告」。タバコのパッケージには、喫煙が健康に及ぼす危険性を示す衝撃的な写真が(一部モザイクを入れました)

佐久間賢三
9年5か月に及ぶ中国滞在から帰国してきて早5年半以上。日本での生活をなんとか続けながらも、外国のあの刺激的な日々が恋しくなってきている今日この頃。世界的なコロナ禍の影響でしばらくは海外旅行に行けそうもなく、雑誌の海外旅行特集や昔の写真を見てウサを晴らそうとするも、かえってウップンが溜まるという悪循環の中で身悶えている。