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吃貨美味探訪記 No.153(日本編その45)「日本の煎餅とは全くの別モノ──煎餅餜子」

 前回、池袋駅北口の中国食品を売る店で買ったライチを取り上げたが、もともとは、そこに併設されているフードコートで食べたものを取り上げようと思っていた。それは煎餅餜子(ジエン ビン グォ ズ)で、中国では朝食の定番の一つ。中国に住んでいた時にときおり食べていた……と思っていたのだが、今回食べた煎餅果子は、調べてみると、それとは微妙に違う食べ物だった。

いったいどこが違うのか……

 深圳にいた頃、勤め先が入っているビルの通りに、クレープのような食べ物を売る屋台があった。実際は屋台というほどのものでもなく、小さな荷台の上にコンロがあり、その上の丸い鉄板の上で焼いていた。その屋台が出ていたのは出勤時間帯だけで、出勤する人たちがビルに入る前に朝ご飯として買い求めていた。

 作り方はクレープとほぼ同じで、トロリとした汁を丸い鉄板の上に均等に広げ、ある程度焼けてきたら表面にソースを塗る。クレープと大きく違うのは中に入れる具で、青菜かレタス少々に、中国風揚げパンの油条(ヨウ ティアオ)を半分に折って乗せて、それを包んだら、真ん中で半分に切って、ビニール袋に入れて渡してくれる。

 その間、わずか数分。いつも朝ご飯を食べてから出勤していたので、滅多に買うことはなかったが、たまに買って、仕事が始まる前にオフィスで食べていた。それが「煎餅」という名前の食べ物だと知ったのは、しばらくしてからである。

 煎餅といっても、日本のせんべいとはまったく違う。もしかしたら以前にも説明したことがあるかもしれないが、中国語の「餅」は、日本のモチとは異なり、薄い円形または扁平の形にした小麦粉系の食べ物のこと。日本でも知られている月餅(ユエ ビン)もそうである。他にも、例えばクッキーは「餅乾」(ビン ガン)という。ちなみにモチは「年糕」(ニェン ガオ)という。

 煎餅と同じ食べ物が、池袋駅北口のフードコートにもあった。看板には「煎餅餜子」とある。餜子という余計な文字が付いていたが、おそらく同じ食べ物だろう。一つ頼むと、店の人がその場で作り始めた。

あっという間に出来上がっていく

わずかに見える茶色の食材が餜子。これがパリパリとした食感を出すのだが、時間がたつと湿気を吸って柔らかくなるので、食感的には意味がなくなる

 出てきたものは、深圳で食べていたものよりややボリュームがあったが、見た目はほぼ同じ。食べてみても、記憶の味とそれほど変わらなかった。大きく違うのは値段で、記憶が定かではないが、深圳ではせいぜい5元程度ではなかったか。日本円にして85円である。とはいえ、深圳で食べた煎餅にはソーセージが入っていなかった(プラス何元かで入れることもできたが、得体の知れないソーセージを入れる気がしなかった)ので、入れていたとしたら100円ちょっと。5倍近い差があった。

フードコート内に人が多かったので「打包」(ダー バオ 持ち帰り)を頼んだら、しっかりと密閉した容器に入れてくれた この原稿を書く前に「煎餅餜子」のことをネットで調べてみたら、煎餅餜子は煎餅果子などとも書き、北京の東隣にある天津が発祥の食べ物だった。しかし、深圳で食べていた煎餅は、山東省(天津の南方にある沿岸の省。青島が有名)の食べ物だと聞いた記憶がある。

 さらに調べてみると、深圳で食べていたのは確かに山東省の食べ物だが、別名「雜糧煎餅」(ザー リァン ジエン ビン)といい、煎餅餜子とは微妙に違う食べ物のようだった。辞書で調べてみると、餜子は「小麦粉をこねて油で揚げた食品」、雜糧は「雑穀、米・麦意外の穀類」で、餜子は煎餅の中に入れているものを指し、雜糧のほうは生地の素材のことを指しているものと思われる。

中国の検索サイト「百度」で検索すると、「雜糧煎餅と煎餅餜子はどう違うのか」などと説明するサイトがヒットしたりするので、中国人でも明確に区別ができていない人がいるのではないだろうか。実際、説明を読んでも、中国語の読解力の不足もあるだろうが、煎餅餜子の生地の材料には緑豆が使われていることくらいしか、違いが分からなかった。

 いずれにしても、見た目も味もほとんど変わらなかったので、今回は深圳時代の懐かしいものを食べたということでまとめることにする。
 

佐久間賢三
9年5か月に及ぶ中国滞在から帰国してきて早5年半以上。日本での生活をなんとか続けながらも、外国のあの刺激的な日々が恋しくなってきている今日この頃。世界的なコロナ禍の影響でしばらくは海外旅行に行けそうもなく、雑誌の海外旅行特集や昔の写真を見てウサを晴らそうとするも、かえってウップンが溜まるという悪循環の中で身悶えている。