SecurityInsight | セキュリティインサイト

吃貨美味探訪記 No.166(マレーシア編その19)「7人でお腹いっぱい食べて、お会計は……──飲茶」

 マレーシアのイポーは、人口約85万人のうち華人が約7割を占めるだけに、中華系の食べ物が豊富である。しかも、その華人のうちの多くが広東系なだけに、同じ中華でも広東系の食べ物も多い。そして、広東料理を代表する料理の一つ、飲茶の点心もまた、よく食べられている。

レストランのテーブルは争奪戦

 週末の午前中からお昼にかけて、中国の広東人はレストランに行って家族そろって飲茶を楽しむ習慣がある。家族といっても、親と子供の3、4人という少人数ではなく、祖父母や兄弟、親戚など、大勢が集まって大きな円卓を囲む。

 これはマレーシアの広東人も同様のようで、イポーを訪れるたびに飲茶をしにレストランに連れていってもらっていた。

 以前にも書いたが、飲茶(ヤムチャ)は広東語の読み方である。もう少し正確に書くと、ヤム ツァのほうが音は近い。そして、飲茶に出てくる蒸籠に入った料理や小皿料理のことを「点心」(広東語:ディム サム)という。

 ある時に行ったレストランはオープンエアの大きな店で、着いた時にはもうテーブルはいっぱい。今はどういうシステムになっているか分からないが、当時は、銀行の窓口受付のように番号が書かれた紙をもらうでもなく、紙に名前を書いて順番を待つなどということもなく、もうそろそろこのテーブルは空きそうだなというところに目をつけて後ろに立ち、席を立ち始めたら素早くそのテーブルを取る、ということをしていた。

レストランにもかかわらず立っている人が多いのは、席取りを待ち構えている人が多いから。大きいテーブルだと、10〜12人は座れる

 点心のオーダー方法だが、中国だと点心のメニューが書かれた1枚の紙が渡され、欲しい点心の名前の下(または脇)にオーダーしたい点数を書き込んで、選び終わったら店員さんに渡すのが普通。昔の香港であれば、蒸籠が乗ったワゴンが回ってきて、食べたい点心があったらテーブルに置いてもらうというのが普通だったらしいが、今ではそういう店はほぼ絶滅しているようだ。

 で、イポーのこの店のオーダー方法だが、点心が並んでいるところまで自分で行って、欲しい点心を伝えてテーブル番号を伝えるシステムのようだった。「ようだった」などと曖昧なのは、自分はイスに座っていただけで、気がついたらテーブルに次々に点心が並び、それらをひたすら食べているだけだったからである。

とりあえずテーブルに並んだ点心。このあとも追加で次々に出てきた

 広東省の深圳で何度か中国人の友人たちと飲茶をしてきたが、その時に食べた料理と比べても、イポーの料理はほぼ同じ。深圳では見たことがないなあと思ったのは、上の写真の左右両脇にある揚げ物くらいか。

 お腹がだんだん満ちてきたところで、一休みに席を立ち、点心が並んでいるところに行ってみた。食べている時には気づかなかったが、深圳で食べた点心よりも形がやや大きい。一口では食べきれないくらい大きいものは、テーブルに出される前にハサミまたは包丁で切って食べやすい大きさにしてくれる。

ステンレス製のワゴンの下に空いている小さな穴から蒸気が出てきて、その上に置いた蒸籠が保温される(のだと思う)

デザートは雙皮奶(広東語:セォン ペイ ナーイ=ミルクプリン) これだけ大きいレストランにこれだけの人がいて、お茶を飲みながら、点心を食べながら、おしゃべりをしている。とにかく賑やかである。このようにして、平日は離れて暮らしている家族が一堂に会して、近況報告をしたり、四方山話をしたりして、一家団欒の時間を過ごすのである。

値段がいくらの点心を何個頼んだかが書かれている。左にある数字が金額で、1リンギットの現在のレートは約28円。 さて、お腹いっぱいになったところで埋単(マイ ダーン=お勘定)である。右の紙は、テーブルに点心が来るたびに店員さんが数字を書き入れていったもの。これを合計した金額がお勘定になる。

 果たしていくらかというと、足し算が間違っていなければ(検算していない)、106.7リンギット。ただし、これは9年前のものなので、今ではもっと高いと思う。そして、この金額を当時のレートで計算してみると、日本円にして約3500円! 大人7人で食べてこの金額である。一人500円。

 マレーシアは食費が日本に比べて大幅に安い。リタイアした日本人たちの間で、マレーシアが人気移住先No.1の理由は、ここにもあると思う。
 

佐久間賢三
9年5か月に及ぶ中国滞在から帰国してきて早5年半以上。日本での生活をなんとか続けながらも、外国のあの刺激的な日々が恋しくなってきている今日この頃。世界的なコロナ禍の影響でしばらくは海外旅行に行けそうもなく、雑誌の海外旅行特集や昔の写真を見てウサを晴らそうとするも、かえってウップンが溜まるという悪循環の中で身悶えている。