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吃貨美味探訪記 No.170(マレーシア編その21)「雑穀類が入った客家人伝統の“食べるお茶”──擂茶(レイ チャ)」

 今回は、マレーシアのイポーで食べたものの、その正体が正直言ってよく分からない食べ物をご紹介する。明らかに中国系の食べ物なのだが、中国に住んでいた時には食べたことも聞いたこともない食べ物だからである。それが、客家人伝統の“食べるお茶”である擂茶(レイ チャ)である。というわけで、今回はいろいろネットで調べて書いてみた。

お茶と雑穀類を混ぜて食べる

 擂茶といっても、雷とはまったく関係がない。辞書で調べたところ、「擂」の字は「擂(す)る」「擂りつぶす」という意味の漢字で、これは中国語も同様である。つまり、「擂茶」とはその名のとおりすりつぶしたお茶という意味なわけだが、何をすりつぶすかというと、お茶やお米、雑穀。それにお湯を注いでいただくわけである。

 この擂茶は中国の客家(ハッカ)の人たちが始めたもので、それが巡り巡って、マレーシアのイポーでも飲まれて(食べられて?)いるわけである。客家人というのは、中国の“流浪の民”とも呼ばれ、かつては中華文化や歴史の発祥の地ともいわれる「中原」に住んでいたが、戦国時代以降の戦乱から逃れるために南方に移り住んできた人たちのことを指す。

 南方に移動していく際、石臼などは重くて持ち運びに不便なことから、軽くて運びやすいすり鉢を携帯し、それを使って米や雑穀などをすって、お粥のようにして食べていたようだ。それが後に儀式として洗練され、客人をもてなす際に出すようになったのだという。

 と、前フリが長くなってしまったので、イポーの食堂で食べた擂茶をご紹介しよう。これである。

 手前の大きめのお椀に入っているのが、ピーナッツやその他の雑穀類、それに青菜や漬物。そして後ろのお椀に入っているのがお茶である(たぶん)。このお茶を雑穀のお椀に全部注ぎ入れたり、レンゲで少しずつ注いだりしながら食べる。正直、何がすりつぶされているのか、よく分からない。

 お味のほうは、あまりよく覚えていないのだが、特別美味いというわけではないが、さっぱりしていて悪くなかった記憶がある。お茶というより、やはり食べ物である。

 食べたのは、マレーシアによくある小さな屋台が集まった食堂で、この擂茶を出していた屋台がこれである。

「也南擂茶」の也南(Jarem)は、イポーから南に下ったところにある地域のことで、ここには、マレーシアに移民してきた客家人のなかでも、中国南部の広東省東部にある掲陽(ジエ ヤン)市の河婆(ハー ポー)という地域出身の人が多く住んでいるのだという。

 客家人といっても中国の広い範囲に広がって住んでいるため、擂茶もそれぞれの地域によって異なっているらしい。イポーで食べた擂茶は、おそらく河婆式のものなのだろう。

 異国に移り住んでも、故郷の味を守り続け、異国の地でその味を伝えている。そういった中国各地(特に南方)の伝統的な食べ物が味わえるのも、中華系の人たちが多いイポーならではである。
おまけカット。ちょっと時期外れの写真だが、中秋節の時にロウソクの火で空に飛ばす天燈

佐久間賢三
9年5か月に及ぶ中国滞在から帰国してきて早5年半以上。日本での生活をなんとか続けながらも、外国のあの刺激的な日々が恋しくなってきている今日この頃。世界的なコロナ禍の影響でしばらくは海外旅行に行けそうもなく、雑誌の海外旅行特集や昔の写真を見てウサを晴らそうとするも、かえってウップンが溜まるという悪循環の中で身悶えている。