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吃貨美味探訪記 No.175(日本編その56)「マレーシアのインド系ぶっかけ飯が日本でも──ナシ・カンダール」

 いつもなら今回は日本で食べる中国料理を紹介する回なのだが、月2回の連載のうちのもう一方がマレーシア編なので、今回は日本で食べたマレーシア料理を取り上げようと思う。しかも、実はマレーシアで食べたことがない料理。果たしてどんなお味なのか──。

まるでオーケストラが演奏する『ボレロ』のよう

 実は一度、この日本編でマレーシアの料理を取り上げたことがある。2021年2月にアップした「吃貨美味探訪記 No.141(日本編その39)『最近は日本で食べられる店が増えてきたマレーシアの中華系料理──肉骨茶』」なのだが、この時はマレーシアの中華系料理だった。

 今回取り上げるのは、同じマレーシアの料理でも、マレー系でも中華系でもなく、インド系の料理。しかも、ただのインド系料理ではなく、インド系ムスリムの料理である。

 以前にもご説明したが、マレーシアは多民族国家で、マレー系、中華系のほかにインド系も1割弱を占めている。そのため、マレーシアにはインド系の料理も数多くあるのだが、そのインド系料理には、インド系ムスリム(イスラム教徒)の人たちが作る料理も一ジャンルを占めている。ナシ・カンダールは、そんなインド系ムスリムの料理なのである。

「インド系ムスリムの料理」と書いてしまったが、実際には、ナシ・カンダールは料理の名前ではない。料理を提供する形態の名前といったほうが正しいかもしれない。簡単に言うと、ぶっかけ飯のことである。

 前置きが長くなってしまったので、今回東京で食べたナシ・カンダールについて話を進めよう。友人のFBで、ナシ・カンダールを出す店があると知り、食べてみたいと思ったのが始まりである。

 店に入ると、サブウェイのサンドイッチを頼む時と同じように、まずメインの具材を決めて、それから目の前にあるさまざまなおかずやカレーを、プレートに盛ったご飯の上にトッピングしていくシステムになっている。

目の前でご飯の上におかずやカレーが次々と乗せられていく

 おかずやカレーは複数あって、どれにするか迷ってしまうが、なるべく野菜を多めにしてみた。インド系なのでカレーも種類が豊富で、そのなかから2種類を選んでかけてもらう。

 そうしてできたのが、こちらである。

おかずとカレーがたっぷり乗っかっているので、ご飯が見えない

皿を回して、ようやくご飯が少し見えた

 最初は野菜だけを食べ、肉だけを食べ、次にカレーを混ぜ合わせて食べ、そこにご飯が加わり、混ざるおかずも複数になってくる。そのうちに何が混ぜ合わさっているか分からないほどグチャグチャになったものを食べ、大団円を迎える。食べ終えた後は満足感いっぱい、お腹いっぱい。まるでオーケストラが演奏するバレエ曲『ボレロ』をご飯にしたような料理だった。

 ちなみに、ナシ・カンダールのナシは、炒飯のナシ・ゴレンとナシと同じで、マレー語で「ご飯」という意味。カンダールは肩でかつぐ天秤棒のこと。さまざまな料理やご飯を入れた大きな2つのカゴを天秤棒の両端にぶら下げて運んだことから、この名前がついたようである。

 これと同様に、中国・四川の成都が発祥の「担担麺」も、現地の四川語で天秤棒を担ぐという意味の「担担児」(ダン ダール)から来ていると言われている。なので、もしナシ・カンダールが四川で生まれていたら、「担担飯」と呼ばれていたかもしれない。

 それはともかく、最初にも書いたとおり、実はマレーシアでナシ・カンダールを食べたことがないので、今回東京で食べたものとどう違うか、本場の味と比較ができない。今年10月にマレーシアに行く予定でいるので(コロナ禍が再悪化しなければ)、その時にぜひ食べてみたいと思って、現地の友人にすでにリクエスト済みである。
 

佐久間賢三
9年5か月に及ぶ中国滞在から帰国してきて早5年半以上。日本での生活をなんとか続けながらも、外国のあの刺激的な日々が恋しくなってきている今日この頃。世界的なコロナ禍の影響でしばらくは海外旅行に行けそうもなく、雑誌の海外旅行特集や昔の写真を見てウサを晴らそうとするも、かえってウップンが溜まるという悪循環の中で身悶えている。