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吃貨美味探訪記 No.179(日本編その58)「中国のどこでも見かける味付きゆで卵──茶葉蛋」

 今回は前回の日本編の続きで、アメ横で食べたものについて。本当は、この時に豆腐花と一緒に食べたワンタンスープについて書こうと思っていたのだが、よく考えてみたら、ワンタンスープなど日本でも珍しいものではない。というわけで、この時にたまたま見つけて食べた、別のものをご紹介する。それは「茶葉蛋」(チャー イェー ダン)、醤油味の汁で煮込んだ「ゆで卵」である。

特別美味いわけではないが、郷愁にかられる味

 中国でゆで卵というと、この茶葉蛋であることが多い。もちろん、お湯で茹でただけの白いゆで卵もあるにはあるが、茶葉蛋を見かけることのほうがずっと多い気がする。

 茶葉蛋の茶葉は文字どおり茶葉のことで、蛋は雞蛋(ジー ダン)、つまりニワトリの卵のこと。なので茶葉蛋は、茶葉の汁、つまりお茶で煮た卵ということになる。とはいえ、日本のお茶漬けがご飯にお茶をかけたものとは限らず、だし汁をかけることも多いのと同様、茶葉蛋もお茶だけで茹でたものではない。

 Wikipediaで調べてみると、煮汁には茶葉以外に香辛料や醤油なども入れるのが一般的のようである(茶葉を入れない場合もあるらしい)。その味が卵に染み込み、味付きゆで卵となるのである。

 中国では、朝食などの軽食を売る商店街の店でも、観光地の露店でも、どこでも茶葉蛋を見かける。商店街の店の茶葉蛋はまだいい。人の往来があるし、買う人も多いだろうから、古いものはあまりないだろう。

街中でテイクアウトの朝食を売る店には、たいてい茶葉蛋も置いてある(銀色の鍋に入った茶色いもの)

 だが、観光地の露店の場合、そんなところで茶葉蛋を買って食べる人などそんなに多くないのではないだろうか。なので、黒々とした汁に浸かっているあの大量の茶色い卵は、いったいいつからそこにあるのだろうと思ってしまう。

 というわけで、思い出話はここまでにして、アメ横で見かけた茶葉蛋である。屋台のような店の店頭に、こんなふうにして売られていた。

 中国の茶葉蛋とちょっと違う。何が違うかというと、卵の殻にほとんどヒビが入っていないのだ。中国で見た茶葉蛋はもう少しヒビが入っていて、そのヒビを通して汁が中に染み込み、卵に味がつくのである。

 とはいえ、買って食べてみないことには始まらない(=原稿が書けない)ので、1個だけ買ってみた。1個100円。ちょっとボラれた気がする。というのも、すぐ近くの他の店で売られていた茶葉蛋は80円だったから。並んでいる店というのは、だいたい同じ値段で売っているものである。

 しかも、値段を聞いた時に店員さんが「100円」と答える前に、ほんの一瞬だけ間があった。この時は中国語でやり取りしたのだが、こちらが日本人と分かって、値段を高めに言ったのではないだろうか……。考えすぎなのだろうが、中国では何気にボラれることがよくあったので、どうしても疑い深くなってしまうのである。

 それはさておき、買って家に持ち帰った茶葉蛋がこれである。

 殻に入ったヒビは一筋と少々。殻を剥いてみたが、やはり汁が染み込んで色が付いているのは一筋だけ。とはいえ、全体的にはうっすらと茶色味を帯びている。

 実際、食べてみるとそこそこ味が付いていた。そんなに濃い味ではないが、ゆで卵なのでほんのり味が付いていれば十分である。

 茶葉蛋。特別に美味いものでもないし、中国で食べた回数もおそらく片手で足りるくらいと、特に思い入れのある食べ物ではないが、どこででも見かけただけに、食べているうちになんとなく郷愁にかられたのも事実である。
おまけカット。ボツにするのは忍びないので、この時にアメ横で食べたワンタンスープ

佐久間賢三
9年5か月に及ぶ中国滞在から帰国してきて早5年半以上。日本での生活をなんとか続けながらも、外国のあの刺激的な日々が恋しくなってきている今日この頃。世界的なコロナ禍の影響でしばらくは海外旅行に行けそうもなく、雑誌の海外旅行特集や昔の写真を見てウサを晴らそうとするも、かえってウップンが溜まるという悪循環の中で身悶えている。