YONAYONA夫婦★酒場日記 – 第1夜「やきとん 元気」

9月某日、夫は秋葉原のITイベントに出席、妻はそれを遠巻きに眺める。壇上に夫よりも巨漢がいたので、体重を推察する。後頭部の肉割れ具合からすると、およそ120キロ。1時間ほどで終了したので、イザ「やきとん 元気」へ。外飲みにはもってこいの秋の夜である──。

前の道が開けていて、狭苦しさを感じさせない外飲みスペース

秋葉原から浅草橋にブラブラ歩いていくと、岩本町の辺りには小さな飲み屋がたくさんある。「この辺は来たことなかったけど、結構良さそうな店、多いね」片っ端から覗こうとする夫、早くビールを飲みたい妻、いつものパターンである。

東京小売酒販会館の下に地酒のショップを見つけて、入ろうとする夫に「ちょっと! 入ったら買わなくちゃいけない感じの店だってば!」と妻怒る。気を悪くした夫、「じゃあ、いいよ!!」と今度はグングン歩き出す。妻がハイヒールなのを知って小走りになるのは、もちろん小っさい意地悪である。

路地裏、廃業したホテルの前に「やきとん 元気」はある。土曜日の5時だが、客はほとんどいない。店内に常連らしき数人と、一人飲みの親父、外飲みスペースには私たち夫婦だけだった。1時間ほどするとサラリーマンたちが「よおっ!」と馴染みの掛け声をかけて、アキバから流れてきたとみえる集団が妙齢の女性を引っ張って、店内に入っていった。

「ホント、この辺はいろんな客層なんだなあ」……しみじみとする夫。子どものころからアキバ通いしていた夫は、このところの街の変化に隔世の感を禁じえない。「昔は食べるトコなんて、ほとんどなかったんだよ」秋葉原から流れた客を、岩本町界隈がキャッチしていたのだろうか。古さも新しさも混在する街である。

店員はみな感じがよい。テキパキとして、問いかけにもきちんと応対してくれる。生(中)500円で乾杯。焼きトン以外のツマミは100円、150円、200円の3つのカテゴリーのなかから選ぶようになっていて、“コレっていいじゃない”と思う。ノンベのアホ頭でも楽に会計できるよう、お店側もわかっているのだ。

らっきょと梅水晶(各150円)を頼んだが、特に特徴なし。おそらく業務用のものだろう。この店は、200円枠が楽しそうだ。「皿ナンコツ」「元気玉」って、一体なんだろう。「皿ナンコツは軟骨を圧力鍋で柔らかく煮たヤツです。元気玉はモツの入ったシュウマイみたいなヤツで……」注文してみるか。

手前「皿ナンコツ」、奥「元気玉」

結果的に、どちらも頼んで大正解である。「皿ナンコツ」は出されてもそれと気づかないくらい、トロトロと柔らかい。ほんの少しお酢が利かせてあるからか、クセもなくて食べやすい。

料理好きの妻だが、こんな調理法は考えたこともなかった。今度真似してみよう。中野ブロードウェイの地下にある有名な肉屋「宝屋」の「ナンコツスモーク」はコリコリ旨いが、アレを煮てみるのもいいかもしれない。

「元気玉」は細かく刻んだモツ入り餃子風なお味で、その形状がシュウマイの皮でサンドした円盤型なのである。こういうちょっとしたアイディアとネーミングセンス、楽しくて素晴らしいではないか。「おまけに安くて、言うことないね!」……夫、ビールのおかわりを早速頼んだのである。

焼きトンは、専門店らしく文句のつけようがない。150円のツラミ(豚の顔)、コロテツ(直腸)は珍しいだろう。小さく切って格好をつけたりしていないので、その部位をダイレクトに味わっている感は凄い。ツラミは“ツラの皮が厚い”って言葉を思い出す厚みで、2センチ近いのを短冊状にして串刺しにしている。“黒胡椒風味!シャクシャク食感のコラーゲンスティック”とでも言うとオシャレだろうが、1本でかなりの食べ応え、夫と妻で半分コがちょうどいい。

レバーの半生、タレのコロテツ

コロテツは歯ごたえのある身に甘い脂が乗って、まあビールに合うこと合うこと! タレで出されたが、一口に“タレ”と言っても、おそらく串ごとにアレンジされているのではないか。コロテツにはちょっと酢を利かせた感じがまた良かった。こんな店は正直初めてで、素直に感心した妻である。

「上タンはキャンプの味がするね」と夫。どういうわけか分からないが、レアに焼かれた上タンには他の串よりも、炭火の良い匂いがよくなじんでいた。

黒豚もご自慢らしいが、今日は品揃えがイマイチのようで残念。我慢するかわりに夫は煮玉子1つ、レバーの半生を追加、1時間ほどでお会計となった。ビール(中)4杯にこれだけ食べて、4000円ちょい。「うわあ、安く済んだね」「これならもう一軒行きますか!」といつもなら妻、返すところだが、今日は昨日の酒がまだ残っているので、ここでオシマイ。

再訪するなら、次は寒い時期だろう。熱燗でしっかり飲むのがよさそうだ。酒はグラス1杯250円だが、ポットでも出してくれるらしい。「大」は3000円(1升)、「小」は1500円(その半分)、これまた豪快! ノンベ夫婦の酒場歴のなかでも、かなりオススメの店である。

YONAYONA夫婦
"愛は酒がつなぐもの、酒は愛をつなぐもの”。そんな心意気のもと、夜な夜な酒場に出かけている。「夫」は腹囲1メートルが自慢(!?)のIT系編集者。好物は日本酒、ビール、コーヒー、玉子、歯ごたえのイイ食いもの。「妻」はWeb系の飲食ライター。バブル時代に親に美味しいものを食べさせてもらっていたクチだが、もうそんなトコは卒業。好物は日本酒、ビール、刺身、豆腐、おひたし。ふたりともほぼ"好き嫌いなし”という、今の世の中に珍しい逸材。