中国美味紀行(四川編)―その3「ウサギ干鍋」

「自貢恐竜博物館」。建物の外観が恐竜の背中のように四川省の省都・成都から夜行寝台列車に揺られること約7時間、朝7時前に宜賓駅に到着。そこから市バスに乗って町の中心部へ。そこで地元の友人とそのまた友人たちと落ち合った。

そこから車で連れていかれたのが、宜賓の隣にある自貢(ヅーカン)という市。隣の市といっても高速道路で1時間弱かかる。そもそも中国で「市」といったら、面積は日本の県なみに広いのだ。

いったいどれが本物のホネ?

館内には大小さまざまな恐竜の骨が展示されているまず訪れたのは恐竜博物館。自貢市は恐竜の化石が大量に発掘された場所で、発掘場所の上にそのまま博物館を作ったらしい。

館内には多くの恐竜の骨が展示されているのだが、どう見てもレプリカ。骨の骨格の復元が完璧すぎる。さすがにここまで完全に骨が揃うことなどないだろう。でもまあ、そんな細かいところは突っ込まずにおく。

ホント、田舎の食堂といった感じ。創業30年くらいらしい発掘現場に覆いかぶさるように建物が建てられていて、そこにはちゃんと、発掘途中の恐竜の骨が土に埋まったままの状態で見られるようになっている。さすがにここまではレプリカ(あえてニセモノとは言わない)にしたりしないだろう。

博物館はそこそこに引き上げ、自貢の中心部へ。お目当ては地元の有名店での昼ごはん。行ってみると、そこはレストランというより単なる簡易食堂。壁に貼られていたメニューを見ると、3つか4つしか料理がない。

で、出てきた料理はというと……。

タケノコと肉の料理。辛い見た目はどんぶり料理だけど、とにかく美味い。すごく辛い。でも、飲み込むとあまり辛さがすっと消えていく、後を引かない辛さ。そして、辛いだけではなく、素材の味もちゃんと味わえる。ご飯4杯くらいおかわりしました。

こちらはなんだろうか。。。骨付き肉の料理。やっぱり辛いそれから腹ごなしに町中を散歩して……。田舎町なので、特に珍しいものもなく。それでそこから向かったのが、また食堂。さっき昼ごはんを食べてまだ2〜3時間しかたっていないのに、また何かを食べるのだという。まるでおやつを食べるような感覚。食事の後のおやつにまた食事。さすがは四川人、中華料理二大スーパースターの一つである四川料理を生んだ地の人だけある。

貧民街のような路地の先で待っていたのは……

こちらがウサギ料理の店。店名は「食の神またの名を厠所兎(便所ウサギ)」それから、なんだかさびれた貧民街の中のような路地を歩いていくと、そこがお目当ての店だという。さっきと同じ、簡易食堂のような店構えだ。

ここで出す料理は、うさぎの干鍋。本編その1で「干鍋」についてはご説明したが、汁気の少ない鍋料理のこと。その1では素材がカエルだったが、今回はウサギである。

自分の運命を知ってか知らずか、カゴの中でじっとしているウサギさんたち日本でウサギを食べることはほとんどないが、フランス料理でも普通にウサギ料理があったりするので、特別ゲテモノというわけではない。四川省でもウサギはよく食べられているが、特に自貢のウサギ料理は有名だそう。

店の前に置かれたカゴに入れられているのは、哀れな運命を待っているウサギさんたち。つまりこの店では、さばきたての肉が食べられるようだ。もし勇気があれば、店頭でさばいているところを見ることもできる。

で、出てきた料理がこちら。

直径30センチほどのステンレス製洗面器のような入れ物で出てくるさっきまでカゴの中でつぶらな瞳でこちらを見つめていたなかの一匹がここに。肉がかなり細切れになっていて、しかも骨がついたままぶった切っているので、食べにくい。味付けはやっぱり辛いが、味はまあよろし。というか、辛いし、肉は小さいしでよく分からない。ケモノ臭さはなく、鶏肉のようにあっさりした感じ。なぜこんなに細切れなのかと友人に聞くと、小さいほうが味がよく染み込むからとのこと。

ちょっと前にご飯を食べたばかりだったのに、けっこうスルスルとお腹に入っていく。辛さも気にならない。すでに舌も胃袋も四川人化していたのかもしれない。

宜賓での食い倒れツアーは次回まで続く。
 

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。