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中国美味紀行その54(深圳編8)「本場とはちょっと違うけど、これはこれで美味い──担担麺」

 移民都市・深圳には、四川省から働きに出てきている人も多い。筆者の感覚的に言うと、広東省のすぐ北隣にある湖南省に次いで人数が多いのではないだろうか。そのため、深圳には本格的な四川料理を出す店が多い。

昼時は近くの勤め人たちでいっぱいになる店

 四川料理を代表する料理の一つ、麻婆豆腐(マーボードウフ)を筆者が中国で初めて食べたのが深圳で、日本の麻婆豆腐とはまったく違うその味わいに衝撃を受けた時のことは、今でもありありと思い出すことができる。

 余談ではあるがこの麻婆豆腐、四川人に言わせると、これはあくまでも四川省の省都である成都の料理で、決して四川料理を代表する料理ではないらしい。麻婆豆腐は19世紀後半、成都郊外の飲食店で作られたのが最初とされている。

 では、四川料理を代表する料理は何かというと、四川省内の各地にそれぞれ美味いものはあるが、全体的に見ると回鍋肉(ホイグォロウ)がそうであるようだ。

本場四川の回鍋肉は、日本のものとは違い、一般的にキャベツは使わない

 今回取り上げる担担麺(ダンダンミエン)は、成都発祥の麺料理である。本場・成都の担担麺については、四川編その11「日本でもお馴染みだけど日本とは全然違う──担担麺」を見ていただきたい。

 担担麺は深圳の四川料理店でも食べることができるが、筆者が好きだったのは、会社のすぐ近くにあった店のもの。昼時ともなると、店は近所のオフィスで働いている人たちでいっぱいになる。

店の名前は「牛王廟」(ニゥワンミァオ)。牛王廟は、四川省成都市にある、約350年の歴史を持つ廟のこと

 とはいえ、この店の担担麺は本場のものとはやはり異なる。本場の担担麺は汁なしだが、この店のは基本的に汁ありである(汁なしも頼める)。それがこれだ。

「担担麺」(15元=約250円)。下のほうに辛いタレが沈んでいるので、よく混ぜてからいただく

 本場の担担麺とも違うし、汁に胡麻ペーストを使うことが多い日本の担々麺とも味は違うが、これがまた美味いのである。辛さを選ぶことができ、筆者はいつも「微麻辣」(やや麻辣)で頼んでいた。それくらいがちょうどよく、一度試しに「正宗麻辣」(本場の麻辣味)と言って頼んでみたら、ものすごく辛くてヒーヒー言いながら食べたことがある。

 そして、この店でもう一つ欠かせないのが、この一品。

「姜汁菠菜」(10元=約165円)

 これは、茹でたホウレン草に生姜汁のタレをかけたもの。あっさりした味わいが、濃厚な担担麺の味で熱気がこもった口の中に、爽やかな涼風を吹き込んでくれる。本当はホウレン草ではなく豇豆(ジァンドウ=インゲン豆の3倍くらいの長さがある豆)のほうが好きなのだが、いつの間にかなくなってしまっていた。

 また深圳を訪れることがあったら、必ず食べたい二品である。
おまけカット。新しい都市・深圳の“旧市街”ともいえる、古い長屋街

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。