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中国美味紀行その68(日本編2)「秦の始皇帝も食べた? 2千年以上の歴史を持つ小吃──肉夾饃&涼皮」

 池袋駅北口、別名「池袋チャイナタウン」と呼ばれるエリアにある商店街をさらに奥に入っていくと、通り沿いに小さな店がある。ドアには「シーアンハンバーガー」と書かれている。ここでは肉夾饃(ロウジァーモー)が食べられるということでずっと気になっていた店で、ある日、意を決して中に入って食べてみることにした。

中国の歴史を舌で味わう

 肉夾饃は中国北西部にある陜西省の名物小吃である。陜西省の省都である西安(シーアン)のものが全国的によく知られている。戦国時代(紀元前403〜221年)からこの地域で食べられているとされており、すでに2千数百年の歴史があることになる。

 現在、肉夾饃は中国各地で食べることができるが、レストランや食堂ではなく、小吃らしく道端の屋台や小さな店で売られているものを買って食べるのが普通だ。以前に上海で食べたものをご紹介しているので、興味のあるかたはそちらをご覧いただきたい。「中国美味紀行その36(上海編7)『屋台のC級グルメもまた美味し──涼皮&肉挟莫』」(ちなみに、このコラムに出てくる屋台街は今はもうなくなっているという)

 狭い店内には中国人の店員と中国人の客が数人。そんな店で出てきたのがこれである。

この店の具は肉だけだが、中国では青椒肉絲のような肉と野菜の具のものもある

 平べったく丸いバンズ(とはいってもパンではない)をタテに2つに割り、その間に調理して味付けした肉が入っている。バンズも温かい。以前の原稿でも「モスバーガーの焼き肉ライスバーガーを想像していただくと、それに近い」と書いているが、まさにそんな感じである。

上海の屋台で作られていた肉夾饃のバンズ

 中国ではたまにしか肉夾饃を食べなかったが、それでも懐かしい中国の味。しかも、ここの店のものはそこそこ美味い。

 店のドアには「シーアンハンバーガー」と書いてあるが、肉夾饃が英語で紹介される際には「チャイニーズ・ハンバーガー」と呼ばれている。

 そして、この店で食べられるもう一つの陜西省の名物小吃が、涼皮(リァンピー)である。

「涼皮」の麺は小麦粉で作られている。コシがなくツルツルした食感

 きしめんのような平麺に、タレとキュウリの千切りなどが乗っかっている。ややピリ辛のタレと麺をよく混ぜ合わせ、キュウリのシャキシャキ感とともに味わうと、意識の半分くらいが中国に戻っていくような気がしてくる。

 この2つの小吃の故郷である陜西省の省都・西安は中国の古都で、紀元前3世紀に初めて中国を統一した秦の都だったこともある。秦といえば始皇帝。その時代にはもう肉夾饃も涼皮も食べられていたようだから、もしかしたら始皇帝もこの小吃を食べたことがあるかもしれない。

 そんな歴史ある中国の小吃を池袋で味わっているうちに、自分がどこにいるのか分からなくなってきた。
 

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。