吃貨美味探訪記 No.137(日本編その37)「二度目の挑戦でようやく出会えた本場の(味にまあまあ似た)味──宜賓燃麺」
- 2020/12/05 00:00
- 佐久間賢三
このコラムの日本編は、日本で食べられる中国料理の紹介なので、一度取り上げた料理はもう取り上げないのが基本なのだが(蘭州拉麺だけ2回取り上げたことがある)、今回は再度、宜賓燃麺(イー ビン ラン ミェン)を取り上げる。前回ご紹介した店のものは本場の味とまったく異なっていて、満足できなかったからである。今回、ようやく本場の味にまあまあ似たものに出会うことができた。
本場のものには入っていない“腰果”
これまでずっとこのコラムを見てきていただいた方ならお気づきかもしれないが、昨年11月から8か月にわたって続けてきた「四川食い倒れ旅編」でも、現地で食べた宜賓燃麺を取り上げている(実はさらにその前、このコラムを始めて間もない頃にも一度取り上げている)。それをご覧になっていない方に簡単に説明すると、宜賓というのは中国内陸部の四川省にある市で、そこの名物麺料理が宜賓燃麺なのである。
宜賓燃麺がどんな食べ物かについては、『中国美味紀行その118(四川食い倒れ旅編7)「火を着けたら本当に燃える?──宜賓燃麺」』で簡単に説明しているので、そちらをご覧になっていただきたい。
以前にネットで検索した際、都内に宜賓燃麺を出すと謳っている店があったので、食べに行ってみたところ、本場の宜賓燃麺と似て非なるものどころか、まったく違っていたため、かなりがっかりしていた。
宜賓燃麺は四川省ではよく知られた食べ物だが、日本ではほとんど知られていないため(中国全体でもそれほど有名ではない)、日本ではその店以外に宜賓燃麺を出している店がそれまでなかった。
それでも時折、ネットで検索していたところ、ついに別の店を見つけたので食べに行ってみた。汁なし担担麺がメインの店だったが、「成都式燃麺」とか「重慶式燃麺」とかいったものではなく、店内のメニューでもしっかりと「宜賓燃麺」と書かれていた。それがこれである。
宜賓燃麺のメインの具である四川の漬物の芽菜(ヤー ツァイ)らしきものと肉みそがしっかりトッピングされている。それにカシューナッツとネギが乗っている。
見た目はかなり本場に似ている。期待できそうである。でもやはり、宜賓の友人はこの写真を見ただけで、本場との違いを見分けた。「なんで腰果(ヤオ グォー)なの?(笑)」と。腰果とはカシューナッツのこと。くびれた形が女性の腰に似ているからそう呼ばれているのだろうか。
話はずれるが、同じナッツ類でピスタチオは中国語で「開心果」(カイ シン グオー)という。「開心」は「嬉しい」とか「楽しい」という意味で、硬い殻の先が少し割れている部分が笑った時の口の形に似ているから、そう呼ばれているのではないかと思う。
話を元に戻すと、本場の宜賓燃麺にのっているのはカシューナッツではなく、ピーナッツである。ピーナッツは日本でも普通にあるが、あまりにも普通すぎるので、おそらくこの店では高級感を出すためにカシューナッツにしているのだろう。
肝心のお味のほうは、本場のものはピリ辛ていどで、花椒はほとんど入っていないのだが、今の日本での麻辣ブームを反映してか、この店の宜賓燃麺はけっこう花椒が利いていて、食べているうちに唇が少し痺れてきた。久しぶりのビリビリ。これはこれで悪くないのだが、このあたりがやや本場と違っていた。それでもまあいい線はいっていると思う。
とはいえ、特に変わった特徴はないので、担担麺のようにブームになったりはしないだろう。マイナーな存在のままでいいので、出す店がもう少し増えてくれたらいいのだが。
佐久間賢三
9年5か月に及ぶ中国滞在から帰国してきて早5年半以上。日本での生活をなんとか続けながらも、外国のあの刺激的な日々が恋しくなってきている今日この頃。世界的なコロナ禍の影響でしばらくは海外旅行に行けそうもなく、雑誌の海外旅行特集や昔の写真を見てウサを晴らそうとするも、かえってウップンが溜まるという悪循環の中で身悶えている。