SecurityInsight | セキュリティインサイト

吃貨美味探訪記 No.173(日本編その55)「懐かしい中国の味を自宅で作ってみた──麻辣燙」

 日本で麻辣燙(マー ラー タン)の素が発売されたと知り、さっそく取り寄せて自宅で麻辣燙を作ってみた。中国に住んだことがある人で、麻辣燙を食べたことがない人はモグリといってもいいほど(実際には、食べたことがない日本人はけっこういるかもしれないが)、現地ではポピュラーな食べ物である。

中国で食べた麻辣燙と、それほど変わらない具材で

 麻辣燙は普通、レストランや食堂などで食べることはない。半分屋台のような店で、しかも麻辣燙しかやっていないような店でテイクアウトして食べるのが普通だ(もちろん店内で食べられるところもある)。

 並んでいる具材を自分でカゴに入れて、店の人に渡せば作ってもらえるので、中国語が話せなくても問題ない。とはいえ、かなり庶民的な場所にある店がほとんどなので、そういう場所に慣れていない人には敷居が高いかもしれない。

 四川料理の味の代名詞でもある「麻辣」という名前がついているように、四川省が発祥の料理で、中国のネット版百科事典「百度百科」によると、四川省楽山市が発祥だという。ただ、筆者は四川省の省都である成都市にも一時期住んでいたことがあるが、成都で麻辣燙の店は見たことがない。麻辣燙と(おそらく)ほとんど同じ作り方の冒菜(マオ ツァイ)の店ばかりだった。

 しかし、麻辣燙は何度も食べたことがある。どこで食べていたかというと、広東省の深圳、福建省の廈門(アモイ)、そして上海といった、四川省以外のところである。

 こういった場所の麻辣燙は、麻辣という名前が付いていながらも、ほとんど辛くない。それぞれの地域で好まれる味付けになっている。深圳の麻辣燙は比較的あっさり味だったし、上海の麻辣燙は八角が効いた甘めの味だった記憶がある。

 日本でも、4年ほど前に池袋駅北口エリアに麻辣燙の店ができ始めると、次から次へと増えていき、今では高田馬場や新宿、上野など、あちこちで食べることができる。日本での麻辣燙については、4年ちょっと前に中国美味紀行その72(日本編6)「火鍋の簡易版であり火鍋の元祖。中国人の日常食──麻辣燙」でレポートしているので、興味のある方は見ていただきたい。

 で、今回は、日本で麻辣燙の素が発売されたというので、ネットで購入して、家で作ってみた次第である。先月の日本編で、具材も全てそろっているカップのインスタント火鍋をご紹介したが、今回のはスープの素で、具材は自分で用意して調理する必要がある。

 麻辣燙の具材といっても、特別なものを用意する必要はなく、お好みでなんでもいい。中国で食べる麻辣燙も、菜っ葉やよくある野菜類、きのこ類、それに、正体がよく分からない肉類といったものばかりだ。というわけで、冷蔵庫の中から揃えた食材がこちらである。

チンゲンサイに舞茸、人参、春雨、冷凍保存した豚肉、冷凍したしめじ、魚肉ソーセージ、冷凍した油揚げ、冷凍コーン。これで一人分

 中国で食べる麻辣燙の具材と、それほど変わらないラインナップ。このうちの春雨は、中国の麻辣燙でも麺類代わりによく使われている。春雨ではなく乾麺を入れることもよくある。麻辣燙というとジャンクな食べ物のイメージがあるが、こうやって見ると、意外にいろいろな食材が入っていて、栄養的にもバランスが取れていそうである。

 

 材料が準備できたら、鍋に水を入れて、麻辣燙の素を入れる。1人前で水200ccに、大さじ1杯ということだったが、具材の量的に水が600ccは必要だったので、大さじ3杯のパウダーを入れ、火にかける。スープが沸騰したところで、まとめて具材を放り込み、中火で煮ること5分。

 全部まとめて入れてしまったが、あとから考えたら、チンゲンサイの葉っぱの部分は火を止める1分くらい前に入れてもよかったかもしれない。

 そうして出来上がったのがこちらである。

 ラー油をたっぷり入れるとさらに美味しさが増すと書いてあったが、入れなくても十分に辛い。辛いものには耐性があるほうだが、結局、ラー油は入れずに食べた。

 中国生活を思い出す懐かしい味。といっても、麻辣味の麻辣燙は食べたことがないので、どこで食べた何の味だろうか……と、なんどもスープを舐めながら思い出そうとしたが、思い出せない。そして、食べ終えてしばらくたってから、あ、これは火鍋(フオ グォ)の味だと思い出した。あまりにも似通った食べ物だったので、かえって思いつかなかった。

 ネットで調べてみたら、他のメーカーからも麻辣燙スープの素が売られていた。どれも「麻辣燙」ではなく「麻辣湯」。「燙」と「湯」、どちらも読み方は同じだが(声調は異なる)、意味は異なり、「燙」は温める、熱くするという意味であるのに対し、「湯」はご存じのとおりスープという意味だ。燙の漢字は日本語にはないので、分かりやすく「湯」の字を使ったのかもしれない。

 まだ粉は余っているし、冷蔵庫の有りもので簡単に作れるので、麻辣味が恋しくなったら、また作ろうと思っている。
 

佐久間賢三
9年5か月に及ぶ中国滞在から帰国してきて早5年半以上。日本での生活をなんとか続けながらも、外国のあの刺激的な日々が恋しくなってきている今日この頃。世界的なコロナ禍の影響でしばらくは海外旅行に行けそうもなく、雑誌の海外旅行特集や昔の写真を見てウサを晴らそうとするも、かえってウップンが溜まるという悪循環の中で身悶えている。