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中国美味紀行その128(四川食い倒れ旅編17)「成都最後の晩餐は、麻辣味と甘辛味を白酒とともに──夫妻肺片&甜水麺」

 というわけで今回は、今回の四川食い倒れ旅行で食べた最後の食事である(実際は翌日早朝も食べているのだが、コンビニで買ったパンと牛乳なので除外)。夜の帳も下り、最後の夕食をどうするか考え、一人だと食べられるものも限られてくるので、やや観光客向けではあるが、かつて行ったことのある、四川の小吃が食べられる店へと向かった。

観光スポットからちょっと離れた店へ

 ホテル近くのバス停から市バスに乗り、向かったのは錦里(ジン リ)。ここは成都の昔の町並みを再現したエリアで、人気観光スポットの一つとなっている。

錦里の入口。すぐ隣には、『三国志』に出てくる諸葛亮やその主君の劉備、関羽、張飛などが祀られている武候祠(ウー ホウ ツー)がある

 錦里は秦朝や漢朝、三国時代にはすでに栄えた商業地として知られていたそうで、現在の錦里は明朝末から清朝初めころの町並みを模して再建されたものとなっている。全体の面積は3万平方メートルほど(東京ドームのグラウンド2つ半)で、その中の通りの全長は550メートル。ここに初めて来たのは2009年だったが、その頃に比べると、店が並ぶ通りがかなり奥にまで広がっていた。

中の狭い通りにはお土産屋や飲食店、バーなどが並んでいて、昼も夜も多くの観光客で賑わう

 ここでも四川の小吃を食べることができるが、さすがにあまりにも観光地すぎて、かつて成都に住んでいたことがある人間としてはそれを良しとできず、あえてそこからちょっと離れたところにある食堂へと向かった。

 錦里の門を出て、たしかあのへんだったよなと記憶を頼りに歩くこと5分弱。前回来たのは4年前だったが、店はまだあった。

 頼んだのはこれ、前回食べたのと同じ夫妻肺片(フー チー フェイ ピエン)である。

スライスされた牛の臓物が麻辣味のタレで和えられた夫妻肺片と白酒(バイ ジウ)

 夫妻肺片については、『中国美味紀行(四川編)―その10「麻辣味がビールのお供にピッタリ──鉢鉢鶏」』でも錦里とともに簡単に取り上げているので、ぜひご覧になっていただきたい。この時の写真と比較すると料理の量が減っているところが、時代というか、物価上昇を感じさせる。

 それを見るのが面倒な方のために、夫妻肺片についての説明をここにコピペしておこう。夫妻肺片は「牛の臓物系を茹でて麻辣味のタレと和えたもの。1930年代、成都で屋台をやっていた夫婦が、“廃片”として捨てられていた臓物を使ってこの料理を作り始めたことから、この名前が付いたという。中国語で廃と肺は同じ発音であり、縁起の悪い廃の代わりに肺の字を使うようになったようだ。」

 皿の下に溜まっているタレとよく混ぜてからいただくと、辛いながらも臓物の甘みが噛みしめるごとに口の中に広がってくる。それを胃に流し込むのはビールではなく、やはり四川らしく白酒がいい(四川省には、以前に取り上げた宜賓の五粮液を筆頭に、白酒メーカーが数多くある)。アルコール度数50度以上の、麻辣な味よりさらに刺激的な液体が、食道と胃袋をカッと燃え上がらせてくれる。

 そして、これだけではさすがに物足りないし、胃にもよくないので、シメとして頼んだのがこれ、甜水麺(ティェン シュェイ ミェン)である。

甜水麺は成都発祥の小吃。この店ではピーナツの粉ではなく白ごまがかけられていた

 甜水麺についても、以前に『中国美味紀行(四川編)―その13「甘さと辛さが前後して口の中で踊り出す──甜水麺」』で取り上げているので、興味があればぜひご覧になっていただきたい。

 甜水麺はぶっとい麺に甘辛いタレを和えたもので、麺はかなり噛みごたえがある。そして、辛いものを食べたあとだけに、甘辛い味が口に心地よい。食事というより小腹が空いた時のおやつに近い。

 もう、これで大満足。食べ損ねたものも多いが、それは次回のお楽しみとしておこう(いつまた行けるか分からないが)。

 いよいよ次回は、四川食い倒れ旅編の最終回。日本に持って帰った、麻辣味の四川土産についてである。
成都市の商店街にある、夫妻肺片の有名店。持ち帰りのみで、いつも長い行列ができている。この店の近くに住んでいたのだが、並ぶ気になれず、買って食べたことがないのが悔やまれる

客の注文に応じて、その場で肉とタレ、その他の具を手早く混ぜていく

佐久間賢三
中国在住9年5か月を経たのち、尻尾を巻いて日本に逃げ帰る。稼いだ金は稼いだ場所で使い果たすという家訓を忠実に守ったため(?)、ほぼ無一文で帰国。食い扶持を稼ぐためにあくせく働き、飲みに行く暇も金もない日々を送っている。日本の料理が世界で一番美味いと思っているが、中華の味も懐かしく感じる今日この頃。